第4回は株式会社フーモアの芝辻さんにインタビューさせていただきました。芝辻さんと初めてお会いしたのは約5年前、私が起業したての頃でした。それから度々事業の相談に乗ってもらったり、フーモアの社員さんと交流させていただく機会があったりと、本連載のインタビュイーの中でも、最もお世話になっております。
芝辻さんは漫画家を目指しておられましたが、大学院を卒業する前に断念。一度就職してから起業をされたというエピソードを以前、聞かせていただいたことがありました。その時は「漫画描ける起業家ってすごい」と思ったのですが、本連載の東工大出身起業家の中でも、非常に異色タイプ。改めてお話をお伺いするのを楽しみに思いつつも、最近ハマっている漫画は絶対に聞こう! と決意し、インタビューに向かいました。
前編では東工大出身の起業家の先輩に、恐れ多くも気になる10個の質問をカジュアルに聞いていきます。大変失礼ながら、あえて事前に質問をお送りすることもなく、その場のノリと雰囲気でお答えいただきました。それ故に、垣間見える東工大卒起業家のリアルな一面をお届けできればといいなと思います。
Interviewee:株式会社フーモア 代表取締役 芝辻幹也さん
1983年生。東京工業大学・同大学院卒業後、2009年アクセンチュア入社。2010年7月シェアコトを創業し、事業譲渡後、2011年5月トライバルメディアハウスに入社。 2011年11月株式会社フーモアを創業し同社代表に就任。ゲームのイラストやマンガ制作、webtoon制作などを手掛ける。株式会社フーモアについて
「クリエイティブで世界中に感動を」をビジョンに掲げ、スマホに特化したフルカラーのデジタルコミックやイラスト、漫画などを活用したエンタテインメントを提供。特に約13,000名を超える登録クリエイターの分業体制により、短期間での高品質な制作を得意とする。現在、フーモアはグローバルでの市場獲得を目指し、国内外のパートナーと共に多くのwebtoon制作を行う。今後もヒット作の開発を目指し、webtoon事業を積極的に拡大中。
好きになったものを突き詰めるタイプ。直近だと、解散したBiSHにすごくハマりました。漫画も、ハマった漫画は作家さんのパーソナルな部分まで気になったり、過去作は全部読んじゃうタイプです。中学生の頃、友達に「これ面白いよ」と漫画を薦める際にに深堀りして紹介しすぎて、周りがついてこれないことがあって。そこから、あまり作品をおすすめするのはやめるようになりました(笑)。
『見えなくても聞こえなくても愛してる』という最近、実写映画化された縦スクロールの漫画があるんですよ。日本の縦スクロール漫画は珍しく、ファンタジー系とか異世界系などが多い中、きちんと物語として泣ける漫画があるんだと、感銘を受けました。他にも『Moving-ムービング-』という縦スクロール漫画があって。どちらも韓国の作品ですが、今どんどん縦スクロールの名作が実写化されていってます。横スクロール漫画に負けないくらい、本当に面白いです。
最近の日本の漫画だと、ジャンプの『カグラバチ』。鍛冶屋の息子の話なんですけど、毎話男子が好きな演出があり、これは是非見ていただきたい。ヒットしそうな作品、というか、もう既に売れてきています。6話目まで読んでみてください(笑)。
『見えなくても聞こえなくても愛してる』 作者:NASTY CAT
(あらすじ)「あのとき、母さんの言う通りに絵を描くのをやめていれば…」 漫画を描いて生計を立てている漫画家 泉本群司は体調不良を悪化させ失明してしまう。それにより面倒をみていた認知症の母を仕方なく老人ホームに入れるも 1人になった群司は孤独と恐怖に襲われ、ベランダから身を投げ出そうとする… 。そんな時、好きな漫画の休載が気になりやってきた耳の聞こえない相田響歌に助けられる。こうして出逢った郡司と響歌、二人が支え合いつつ織りなす切なくも温かい感動ラブストーリー。
「見えなくても聞こえなくても愛してる|ピッコマ」より引用
『Moving-ムービング-』 作者:Kang Full
(あらすじ)幼い頃から宙を浮く事ができる能力を持っていたキム・ボンソク。始業式にも関わらず遅刻した日、ジャン・ヒスに出会い様々な変化が訪れるが…明かすことのできない秘密を持った高校生と 彼らの両親の物語が今始まる…!
「Moving-ムービング-|ピッコマ」より引用
『カグラバチ』 作者:外薗健
(あらすじ)刀匠を志す少年チヒロは、刀匠である父の下で、日々修行に励んでいた。
おちゃらけた父と寡黙な息子。
笑いの絶えない毎日がいつまでも続くと思っていたが…ある日悲劇が訪れる…
血塗られた絆と帰らない日常。
少年は憎しみを焚べ、決意の炎を心に宿す。
異才が描く、剣戟バトルアクション!
『ドラゴンボール』ですかね。舞空術という技があって、主人公・悟空はそれを教えてもらい、宙に浮くようになるんです。それを自分も本当に頑張って、念じて飛ぼうとしたりしてました(笑)。30代前半くらいまでは、出社途中に「飛べないかな」と思ったり、「でも、本当に空飛べたら寒いだろうな」と考えたり(笑)。
しばらく絵は描いていなかったんですけど、今自分が編集者として担当している作品『2周目プレイヤー、最高難易度を無双してレベルアップ』という作品があって。もともと韓国向けに出したんですが、日本でもピッコマさんで出すことになって、作家さん達に「何か絵描いてよ」と言われて、リリース祝いで6〜7年ぶりに絵を描いたんですよね。わくわくしながら、喜んでもらえばいいなと思って描いたのは久々の経験でした。こういう気持ちで作品を作ると、やはり素晴らしいのだろうなと改めて思いました。
『2周目プレイヤー、最高難易度を無双してレベルアップ』 作者:Bigfathamster ・Runbel(whomor) ・bluesoul
(あらすじ)2020年、怪物によって人類は滅亡の危機に迫られた。 人類に与えられたのは4つの選択肢。 誰もが生き残れるイージーモード 、最善を尽くし屈服しない者が生き残るノーマルモード、 1%の者だけが生き残るハードモード、 そして一人で生き残らなければならないアローンモード 。他の者が持っていないスキルで迷宮を攻略するのは、人類最強の帰還者でイージーモードプレイヤーの神谷 怜。 自分の選択を後悔し人類最後の日を迎えた時、再び選択の機会を得る。 必ずもっと強くなって地球を守ってみせる!もう一度、迷宮へ。 神谷 怜のアローンモード攻略が始まる!
大学生の頃、インターンシップで、夏休みに1ヵ月ほど寮生活しながら、企業でお仕事をさせてもらったことがありました。その時に、東工大を卒業して技術者になったら、こんな風になるのだろうな、とイメージができてしまって。他の選択肢も見てみたいと思っちゃった。それが1つのターニングポイントで、その経験がなければ、普通に会社に就職していたかもしれないです。
たまたま東工大生や野村総研、ミスミなど若手同世代の男4人が住んでいたシェアハウスがあり、ブログで入居募集していたんですよ。それを見て、絶対これは応募が殺到するのでは! と思って連絡したんです。結局、自分しか応募者はいなかったんですけど(笑)。
それで、シェアハウスに入ったら、そのシェアハウスのメンバーが「会社やります!」と言い始めて、「お前もやらないか?」と誘われ、最初に会社をつくることにしました。
1回目の起業では、アメリカで流行っていたクーポン共同購入のサービスをタイムマシーン経営的にやろうと、始めました。でも、同じ事業を考えた人が何万人といて、自社サービスがローンチする前に競合が沢山出てるという感じで。そこからが大変でした。
一度就職をしていて、パワポとかエクセルで資料作りもできたし、少し自分は仕事できるかなって思っていたのです。でも、資料を作るだけでは、実際に売上をたてることができないと分かって。自分は何もできないのだな、と痛感しました。
新卒で就職した会社には1年ほどしかいなかったんですが、他のメンバーは3〜4年社会人をやっていたので、全然見え方が違って、僕は使えなかったんです。だから、他のメンバーができないことを何かやろうと思い、マーケティングの勉強を沢山しました。
クーポン共同購入サービスはピボットしたのですが、その事業のために興した会社だったので、やる意味を感じなくなってしまって。そこで、ビジョンである「これが本当にやりたい!」というものがないと、事業継続はできないと痛感しました。「何をもって会社が存在するのか」に対する答えが無いときついな、と。
1回目の起業後は、自分探しのような感じでSNSマーケティングの企業に入社しました。
その後、知り合いの社長さんの結婚式で、出席者全員の似顔絵を依頼して頂く機会がありました。その時に絵の力ってすごいと改めて感じまして。絵描きとして食べていくのは厳しいけど、自分も描いた経験があるのと、ビジネス経験もあるから、作り手を支援することはできると思い、2回目の起業に至りました。貯金は20万円くらいだったので、資本金2万円で会社を立ち上げました。最初は銀行口座も、取引実績がないから開設できませんと言われたり、大変だったんですけど、1回目の経験があったので起業するハードルは高くなかったです。
得られたもので一番大きいのは、‟自分は人の気持ちがよくわからない”ということに気がつけたことです。人の気持ちがわからないやつ、と理解した上で付き合ってくれる方もいますが、それを自覚した上での振る舞いができるようになったと思います。
あとは自ら創業した場合、色々な経験をしますよね。法律に詳しくなくても何かを契約をする上で、専門家に聞きながら、意思決定していかないといけない。やることの幅が広くなるのもそうですし、何かを知るきっかけになります。様々な職種の人達と接することで、こういう発想があるのか! という発見もありました。
前編では用意していた他の質問が聞けなかったほど漫画の話で盛り上がってしまい、記事になった文章の倍くらい内容を芝辻さんに語っていただきました。
Q1で好きなものについて深く語りすぎて、周りがついていけないこともある、とおっしゃっていましたが、私も好きなものに熱中しやすいタイプなので、とても共感できました。実際に、インタビューの途中で「伊東岳彦さんの『覇王大系リューナイト』っていう二頭身ロボットアニメがあって、最近リメイクされた『魔神創造伝ワタル』って作品もあったりするんですけど、そこから『宇宙英雄物語』とか『星方武侠アウトロースター』を読むようになったり…」と急速な深堀に追いつけない場面があり、芝辻さんの漫画への愛の大きさを体感しました。
ちなみに、漫画トークの中で、私も以前から好きだった『薬屋のひとりごと』(中華風帝国の後宮が舞台のライトノベル)がアニメ化されてモチベーションがアップし、中国史を勉強し始め、中国語も勉強をし始めて、中国語検定を受験した話をした時は逆に、芝辻さんも「へぇー……」とついていけなくなっておられました。
後編では、漫画の領域で10年間以上事業を続けておられる芝辻さんの想いを詳しくお聞きしました。
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上記は、取材時2024年1月時点のものです