第1回は新宿の小田急サザンタワーに本社を構える株式会社DONUTSにお邪魔し、取締役の根岸さんにお話を伺いました。私が根岸さんと初めてお会いしたのは2021年秋くらいで、同ビル内にあるアジアン料理レストランでランチをさせていただきました。ジョブカンやミクチャ、Ray 、Zipper、ハウコレ、美少女図鑑、アカリクなど私が好きだったり、利用経験のあるサービスを運営する会社の取締役ということもあり、緊張で震えながら新宿駅からの道を歩いた記憶があります。一方で、実際にお会いしてみると、とてもフランクで話しやすい方でした。
本連載の前編では東工大出身の起業家の先輩方に、後輩という立場を利用して、気になる10個の質問を恐れ多くもカジュアルに聞いていきます。大変失礼ながら、あえて事前に質問をお送りすることもなく、その場のノリと雰囲気でお答えいただきました。それ故に、垣間見える東工大卒起業家のリアルな一面をお届けできればといいなと思います。
Interviewee:株式会社DONUTS 取締役 根岸心さん
東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2004年4月株式会社DeNAに新卒第一期生として入社。法務・経理・営業・マーケティング・システム部門と横断的に関わる業務フローの設計、業務システムの企画を担当。2007年2月株式会社Donutsを共同創業し、取締役に就任。株式会社DONUTSについて
“インターネットを通じて、世の中の時流を変える”ことを掲げ、IT分野の5領域(ジョブカンシリーズなど企業のクラウド型業務支援サービス、ゲーム、動画・ライブ配信、医療、出版メディア)を軸に事業展開している。一見すると全く異なるジャンルのプロダクトがシナジーを生み出し、2007年の創業以来、高い成長率を達成している。※2021年6月に社名表記を株式会社DONUTSに変更(登記上の商号は変更せず)
好奇心の塊かもしれないです。何にでも興味を持っちゃうから、自分の中で絞っていくことを心がけてます。特に学生時代くらいまではどんどん興味の対象が移ってしまって1つの物事を深められず、逆に自分の中では改善した方がいいのかもと思ったりもしていました。
分野も問わず好きになってしまうタイプで、工学系で言えばソフトウェアの他に、ハードウェアも気になったり。20代のときは庭園とかも好きになっちゃって、週末に庭園ガイドをやっていたりしましたね。でも、歳を重ねるごとにより社会的なこと、より広がりのあることに関心を抱くように変わってきているような気はします。
なんだかんだいって、技術のことが好きだなって思いますね。年末もたまたま本屋に行ったら、半導体産業の本を見かけて気になりました。学部の頃はハードウェアを学んでいたのでなんとなく分かるんですが、いま世界的に半導体産業が注目されていて、改めて知りたくなり本を読み進めています。技術に対してのワクワクっていうのは止められないんですよね。
最近は、あります。昔はもう記憶にないくらいでしたけど。だいたい土曜日は自分の好きなことをやる日にしていて、日曜日は家族のための時間をとるようにしています。
プログラミングをやったり、本を読んだり、ジムに行ったり。いまは自分の好きというものに対して、素直に向き合うことを心がけています。やらなきゃいけないことに対してどう向き合うかの連続の中で、改めて自分のエネルギーを1番発揮させるには、自分が好きという気持ちが重要だと思い直して、そこへの感度をよくすることを意識しています。
小学生のときになりたかったのは、大工だったと思うんですよね。工作的なものがすごい好きで、レゴとかも半端なく好きで。何かをつくりたいっていう気持ちが強かったんですよね。レゴもマニュアル通りに作るのは1回だけで、その後は自分で工夫してオリジナルのものを作っていくのが好きでした。その後はお菓子作りにはまって、パティシエになりたかった時期も。とにかく、何かをつくる人になりたかったです。
高校の時にいろんなパソコン雑誌を読み漁っていく中で、シリコンバレーのことが書いてある本を見つけたんですね。当時、Windows95がすごい勢いで広がったときだったんですが、海外の若い人たちが、自分たちで会社を興して、こういうものをつくったなんて思ってもみなくて。それを知ったときにすごく衝撃を受けて、面白そうだという好奇心に突き動かされて、自分もその道に行きたい、そこでなにかしらの変化を起こすことに自らも携わりたい、と思いました。
起業をしなければ手に入れられない視座や経験を得られました。普通の一社員なら経験しなくてもいいことやできないことを経験していくので、そこから自分の思考や世の中の捉え方が変わってきたと思っているし、それは自分が求めていたものでもあります。
失ったのは、ゆったりした生活とか。時間もお金も、起業というものに対して優先してきたので、一般の人が思い描くようなプライベートとはちょっと違ったかなと思います。最近、X(旧Twitter)で知り合いの社長が「自分はこの道を選んできたけど、全員が全員ハッピーになる道じゃないし、これだけ賭けてきたからこそ手に入ったものがある」と投稿していて、まさにそうだなと。だから、何を得て、何を捨てるかなんだと思いますね。
揺るがない人間。一度決めたことを絶対に曲げない。それを自分のポリシーにしていて、そういう人間でありたいんだと思う。だから、彼が起業を志したのは、自分の中で起業したいって気持ちがちょっとだけ芽生えちゃったのに起業しない人間はダサいと思い、そのポリシーのために会社を辞めたらしいです。
彼と僕は全然タイプが違うと思うんですよ。アメリカではAppleやMicrosoftなど2人で起業しているケースが多くて、自分はオールマイティーな人間だとは思っていなかったから、起業を志してから数年、自分に無いものを持っているビジネスパートナーを探し続けていました。でも、これは! っていう人はなかなかいなくて。最終的に1人で起業しようと思って動き出していた時に、彼から「一緒にやろう」と言われました。
すっきり「よし、やろう!」となった訳ではなく、思い悩んだ部分もあるのですが、彼は最後は成果を出す人間で、いろんなことに恵まれている、運がいいやつと思ったんですよね。僕も自身の事を運がいい、と思っていたので、タイプが違って、運がいい人間と組むんだったら成功確度が上がるだろう、と。そこで、「じゃあ、一緒にやろう」と返事しました。
最初の頃は毎日喧嘩してましたから、多すぎて語れないです(笑)。普通は、耐えられないと思います。もう、喧嘩しすぎてクライアントから心配されるほど壮絶でした。1年目に「もう辞める」と言ったことがあります。彼からは「辞めてほしくない」か「辞めよう」のどちらかの返事だと思っていたら、「辞めさせない」と言われて。何でそんな斜め上からくるんだと思ったんですけど、彼は「一緒に成功するまでやるって決めた」と言いはったんです。そう言われると僕も辞められない。彼も本心では辞めたかったと思います。それでもお互いに譲れないものがあり、彼は自分が言ったことを絶対曲げないし、僕は僕で自分自身から逃げないことがポリシーとしてあったので、個人的には絶対一緒にやりたくないけど、もうお互いのポリシーのために戦ってきた。意地だったと思います。少なくとも僕自身は逃げられないな、と思ってやっていましたね。
生成AIの分野が盛り上がっているので、僕らもいろんな事業部の中でどんなふうにこの技術を入れ込んでいけるか、とても関心があります。やはり技術的分野でワクワクしていたいし、今いろんなプロダクトを持っているからこそできることがあると思っているので、すごく可能性を感じています。僕自身が研究室で機械学習をやっていたときは、1つのアルゴリズムを論文見ながら実装していくのが普通で、「いろんなアルゴリズムを試しましょう」とか「その応用をどうやって実現していくか考えましょう」なんて夢のまた夢みたいな感じだったから。面白い時代ですね。
前編では、根岸さんに気になる10個の質問に回答していただきました。創業当初の共同創業者・西村さんとの壮絶なエピソードは衝撃的でした。私だったら秒で病んで泣いて逃げちゃいそう。それでも自分のポリシーを貫き通すために、向き合い続けたというのがとにかくかっこよかったです。
創業メンバーと喧嘩をしても逃げない、みたいなことは真似できないかもしれないですが、私は私自身のポリシーを大事にして、譲らない強さを持ちたいです! ……っていい感じに書いて締めようと思いましたが、そもそも私のポリシーってなんだろう? 譲れないものって何だろう? それを明確に言葉にして自分の中に持っておくことも大切だなと思ったインタビューでした。
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上記は、取材時2024年1月時点のものです