サイエンスで新しいものを生み出す - 第2回 株式会社メタジェン取締役CFO 水口佳紀さん(後編)

前編では株式会社メタジェンの水口さんに、大学の先生と起業することについてなど気になることをお聞きしてみました。その中でも、「ニセ科学が嫌い」「サイエンスを貫き通す」というお話が後編に繋がってくるのではないかと思いました。

後編では、本連載のテーマである「偏愛起業主義。」に基づき、好きなものを追求すること = 偏愛が、起業に繋がるのではないか? という仮説を、東工大出身の起業家の先輩たちへのインタビューを通して検証していきます。

Interviewee:株式会社メタジェン 取締役CFO 水口佳紀さん
2013年、東京工業大学生命理工学部 生命科学科 生命情報コースを卒業後、同大学大学院生命理工学研究科に入学。同年より5年間東京工業大学情報生命博士教育院に所属し、2015年、株式会社メタジェンを設立。2018年博士後期課程修了後、現在は同社のCFOを務め、自らが掲げる「病気ゼロ社会」の実現に向けて会社を牽引している。

株式会社メタジェンについて
個々人が自分の腸内環境を知り、自分に合ったヘルスケアの選択をあたりまえにできる社会の実現を目指して、腸内環境評価手法を駆使した研究開発支援や、腸内環境データベースを活用した商品・サービス開発を推進している。

正しい“サイエンス”を、正しく広げていく

――― 「偏愛が起業に繋がる」という仮説について。ここまでお話をお伺いし、水口さんの偏愛対象として“サイエンス”という軸があてはまりそうだと思ったのですがいかがですか?

やっぱりそこが起点ですね。自分の考えは“サイエンス”から来ています。ニセ科学の話もしましたけども、そういうものをなくしたいという強い想いで、正しい“サイエンス”を正しく広げていくのも重要かなと思っていますね。

――― 水口さんの過去のインタビューで「ものづくりで人を救う」というお話をされていましたが、“ものづくり”という観点についてはどうですか?

高専で活動していた時から、何かを生み出すのが好きなんです。今世の中にないものや新しいものを生み出していくのが。サイエンスベースで、自分のアイディアに基づいて新しく設計したものを、何かの役に立てるというプロセスは非常に大切にしていますね。

博士の研究も再生医療のためのバイオマテリアル(生体材料:医学や歯学分野において、主にヒトに移植することを目的とした材料)において、自ら新設計したものをつくっていました。ファイナンスだと、どう決算書をつくるか、どう最終着地させるか。本質的ではないんですが、綺麗な決算をデザインすることも、“ものづくり”の一部にはいってくるのかな。論文のグラフィカルアブストラクト(論文の要旨を要約した画像)をどうするかにこだわったり、プレゼンもどう見せるとより刺さるだろうか、などを考えたり。そういうところも含めて“ものづくり”が起点となっています。

ビジョンベースであることが一番強い

――― 起業家として事業を続けていくには「偏愛」が必要なのではないか、と今回お話を聞きながら改めて感じました。特に博士課程で研究しつつも、会社経営をされていた時期などは、普通の人には真似できないと思います。水口さんが頑張り続けられる理由ってどこにあるんでしょうか?

僕の場合は、ビジョンベースであることだと思いますね。そこがやはり一番強いかな、と。「病気ゼロ社会」の実現というビジョンを目指していく、それは自分がやると決めたことなので揺るがないのです。形は変われど、そこは最後に目指すところなので。

そして、着実にビジョンへの近づきが感じられること。あとはメンバーや協力企業など、多様な連携がどんどん増えてくることですね。沢山の方の応援を、とても感じるのです。もちろん東工大も応援してくれていますし、これまで関わってくれた人達のエールが大変励みになっています。

―――水口さんの座右の銘はありますか?

『ビジョナリー・カンパニー』という本があり、その中に「AND思考」があります。矛盾することがある中で、A or BではなくてA and B、両方できる選択肢を探していくという思考法です。行き詰まったときも、常に矛盾の両立をふり絞って考えていくことを大切にしています。博士課程をやりながら、会社経営をしてきたのも、この考え方からです。

学生起業家も途中で辞める人もいるし、それはそれで自分で決めたらいいと思うのだけど、両立するやり方もあるんだ、という姿を見せていけたらいいかなと思います。

―――最後に、東工大の後輩たちへのメッセージをお願いします

自分で信じた道を突き進んでいって欲しいです。周りからの意見もありますが、そういう声を気にせず、自分がやりたいことや選んだ道を自分の正解にしていく生き方をして欲しいなと思っています。常識にとらわれずに、新しい未来をつくる人材を目指してほしい。枠にとらわれるな、というのを、メッセージとして残したいですね。

今回、終始水口さんの優しい雰囲気でインタビューが進みましたが、少し空気感が変わったのが、ニセ科学の話題が出た瞬間でした。

前からニセ科学が嫌いです。怪しい製品が沢山世に広まっていて、サイエンスリテラシーが高くないと騙されてしまう。もちろん健康被害もありますし、全然効かないものを人々がどんどん買ってしまっているのが嫌なんですよ。だからそんな問題を正したいと思っています。
前編より引用)

水口さんの穏やかすぎる印象に、嫌いなものや腹が立つことなど世の中に存在しないのでは、と感じていたので、正直驚きました。(ちなみにニセ科学については、私も巧みにコンプレックスを刺激され、つい購入してしまう気持ちにとても共感します!)しかし、それが後編で語られた“サイエンスで新しいものをつくり出すこと”に繋がっており、非常に納得しました。

このような強い想いをベースに、「AND思考」で矛盾する選択肢も諦めず、ビジョン実現を目指す水口さんの姿。その姿勢から、沢山の学びを得ることができました。研究と会社経営は、私が今まさに両立に悩むテーマですが、読者の皆様も今後「どちらを選んだらいいんだろう…?」と迷うことがあると思います。「普通はどちらか1つをにする」とか「どちらもやるのは難しい」と最初から諦めるのではなく、事業でも自身のキャリアでも、一度両立の可能性を考えることを忘れずに向き合っていければと思います。

キーワード

  • バイオインフォマティクス
  • ライフサイエンス
水口 佳紀(みずぐちよしのり)氏
水口 佳紀 氏 / 株式会社メタジェン取締役CFO(後編)
株式会社メタジェン 取締役CFO
2013年、東京工業大学生命理工学部 生命科学科 生命情報コースを卒業後、同大学大学院生命理工学研究科に入学。同年より5年間東京工業大学情報生命博士教育院に所属し、2015年、株式会社メタジェンを設立。2018年博士後期課程修了後、現在は同社のCFOを務め、自らが掲げる「病気ゼロ社会」の実現に向けて会社を牽引している。

株式会社メタジェンについて
個々人が自分の腸内環境を知り、自分に合ったヘルスケアの選択をあたりまえにできる社会の実現を目指して、腸内環境評価手法を駆使した研究開発支援や、腸内環境データベースを活用した商品・サービス開発を推進している。
水口 佳紀 氏 / 株式会社メタジェン取締役CFO(後編)