第2回 山城 悠 さん×知念 優 さん INDEST学生カフェ~起業家と語ろう~

第2回(2024年2月28日開催)は、株式会社Jij CEOの山城悠さんをゲストにお迎えし、本学情報理工学院 数理・計算科学系学士課程2年の知念優さんをナビゲーターに、お話をうかがいました。


知念さん まず、株式会社Jijの事業について教えてください。

山城さん 「社会のOSをつくること」をビジョンに掲げ、最適化計算を主とするソフトフェアを開発しています。アルバイトシフトの構築や、コジェネレーションシステムの制御、通信基地局での周波数の調整など、社会のインフラにおける最適化問題を上手く改変してハードウェアに伝える、というのが我々のプロダクトです。企業のDX化により、データ収集⇒分析・予測が進んだお陰で、今、数理最適化技術が注目を浴びています。


知念さん その「社会のOSをつくる」というビジョンに至るまでどういう経緯があったのですか。

山城さん 僕は元々専門が物理で、学部は琉球大学で素粒子物理学の理論を学び、大学院はOIST(沖縄科学技術大学院大学)で、ダイヤモンドを使った量子コンピュータのデバイスをつくっていました。そのうち量子の理論側をやりたいということで、当時東工大・理学院 物理学系の西森研究室に入ったのです。その西森研究室で先輩だった大関真之先生(現在、東北大学大学院情報科学研究科情報基礎科学専攻教授/東京工業大学理学院物理理学系教授/株式会社シグマアイ代表取締役)が採択されたJSTのSTARTという事業の延長でJijを創業しました。修士2年の最も忙しい時期に起業してしまった感じです(笑)。


知念さん “量子コンピュータ”というテーマに興味をもったきっかけを教えて下さい。

山城さん 10年ほど前の学部生の頃、“量子コンピュータ”という言葉は、検索すればギリギリ出てくるくらい。今ほどホットトピックではありませんでした。当時、キャリアの授業で、将来研究者になるためのテーマを調べていたら、「量子コンピュータが実応用を目指している」、という記事を見つけて。その時に初めて“量子コンピュータ”という言葉を知り、この分野をやりたいな、と。そして、量子情報処理をやりたいと言い続けていたら、OISTに行かせてもらえることになり、西森先生を紹介してもらえたのです。

元々僕は、未来の科学技術に興味があり、タイムマシンをつくってみたい! と思っていました。でも、時空間の勉強をするにつれて、タイムマシンは無限のエネルギーが必要でつくるのは無理だと分かった。じゃあ、未来を変える技術そのものを自分が持ってこよう、と。それで “量子コンピュータ”の世界に入っていきました。琉球大からOIST、そこから東工大での西森先生、大関先生の出会い、会社創業まで本当に運の連続です。


知念さん すごいご縁の連続ですね!

山城さん 勿論運もあるでしょうが、「こういうのをやりたい!」というのは常に周りに発信していました。Jijの元となったJST事業も、大関先生の「研究員を募集します」というツイートにたまたまDMを送ったのが始まりで。スティーブ・ジョブズの名言にある“Connecting the dots” という言葉が、僕はすごく好きです。とりあえず全力で色々行動をしてみて振り返ってみれば、全て点は線でつながっている、と。


知念さん 繋がることが見えず、行動している最中は不安になったりしませんか。

山城さん 当時は何も考えておらず、不安は一切ありませんでした。会社設立時も、大岡山のボロいアパートで、会社設立をサポートするウェブサイトからボタンを押して、「次はこの書類を書け」、「次は届出をだせ」など、ゲームのクエストのように1つずつこなしていったら、「完了! 会社設立 おめでとう」という画面にたどり着いて。行き当たりばったりでも、ずっと発信と行動をし続けるのが大切かなと思います。


知念さん 起業における仲間集めについて教えてください。

山城さん 現Jij CTOの西村さんは、僕たちの研究室の中で数値計算(プログラミング)が1番できる方で、この人を絶対に入れたい! と思いました。西村さんはすごく面倒見がいい先輩なので、事業開始時に僕が書いていたプログラムをちょっと手直ししてほしい、とお願いして。そうこうしているうちに、あるイベントでJij設立を発表する際、彼を「Jij のCTO:西村さんです」って紹介したのです。その頃既に一緒にソフトウェアを開発していたので、彼には一旦仮でCTOにしておいてください、と。その後彼のお父さんに会いに行ったりし、将来の進路を迷っていた西村さんを必死で説得しました。そんな感じで初期のコアメンバーを集めていきました。


知念さん その後、会社の成長と共に、採用する方のポイントも変わってきましたか。

山城さん ビジョンである「社会のOSをつくること」に共感いただける方を採用しています。
例えば量子コンピュータの元になった量子力学というのは、産業革命時に溶かす鉄の温度と色の関係を知りたいという欲求から始まりました。その量子力学のお陰で、半導体技術が出て、コンピュータに発展し、情報革命が起きました。そこで、コンピュータは熱いという課題が発生し、熱くならず速度の速い量子コンピュータが誕生しました。技術と社会は相互に発展してきているので、新しい技術や科学を見つけるには、社会に技術を実装させることが有効と考えています。まず、社会のOSであるコンピューティング技術が浸透し、人類がもっと計算機を必要とすれば、おのずと量子コンピュータが社会実装され、次のサイエンスが見つかります。だからこそ、社会のOSをつくりたいのです。このサイエンスをベースとしたモチベーションの部分に共感してくれている人達が、弊社には多くいます。

技術だけに共感する方を採用しても、社会実装しようとなると、想定した技術とは違う方向を選ばないといけない時が絶対に来る。その時に、ただ技術が好きなメンバーだと、その技術を採用しなければ、離れやすくなる。抽象度の高いビジョンとミッションにしっかり共感してくれる人が入って頂けると、会社がよくなる気がします。


知念さん 「社会のOSをつくること」特にディープテックで世界を変える! のは、とても大きなビジョンだと思いますが、その過程はどう考えておられますか?

山城さん 大まかでいいので、ロードマップをしくというのが大事だと思っています。ビジョンから逆算した現在地点までのロードマップ。そうやって社内の共通意識をつくっておく。またそれを顧客にも見せるのです。そうすると、彼らもこういうタイムスパンで、これがやりたいのだなと理解してくれる。ディープテックはそこがすごく重要だと思っています。特に未開拓分野では、ロードマップをつくってくれるプレイヤーに皆が集まるので、社内外を巻き込み、研究開発をより進ませることができます。とはいえ、顧客はロードマップに共感してくれても、目前の課題を解くことが重要なので、顧客との期待値調整は重要になってきます。


知念さん 技術者であればあるほど、顧客との期待値調整が必要となってくるので、技術ドリブンとのバランスが難しいですね。

山城さん 確かに技術者だからこそ、色々な技術の見方を表現できるので、顧客の期待値を高めてしまう恐れもあります。ただ課題ドリブンで会社や事業を進めると、今の延長上でしか、よいプロダクトや技術が出てこない。ディープテックって、技術で会社を興すことが注目されがちですが、そもそもの技術がないと、課題自体を認識できない場合も多いのです。例えば、鉄道だと“スジ(筋)師”と言われる職人がダイヤを引いており、これを計算機でやるなんて今まで考えもしなった。ただ、数理最適化が発達し、僕たちが今、最適化計算を使ったダイヤ作成にトライしています。技術ドリブンだと、この“課題を発見しにいけるところ“に面白みがあります。なので、東工大メンバーには、是非そういうアプローチで事業を創造していってほしいなと思います。


知念さん 修士の時の山城さんは、学生時代どんな生活をしていたのですか。

山城さん 修士の時は、研究しかしてこなかった。平日は大岡山(途中からすずかけ台キャンパスへ)と家の往復で。とはいえ、休日2週間に1回は色々なLT(Lightning Talks:ピッチイベントのようなもの)に出たりしていました。東工大にいると中々同じ技術サイドの人しか知り合わないので、connpassなどで調べて。

研究が好きで、論文発表も注力していました、特に国際学会で発表するのはすごく大事。僕の場合は、強みが研究と技術分野だったので、創業後の商談も“山城悠”という一研究者としてディスカッションをしてもらえて、そこは強かったと思います。また学生時代の共同研究や研究合宿が縁で、最初の顧客獲得や本国のAWSやマイクロソフトなどとのパートナーシップ提携に至りました。人脈を広げるのは、まず目の前の研究を頑張ることが第1歩だったりします。


知念さん 最後に東工大の後輩たちにメッセージをお願いします。

山城さん 運は確率的に低いけど、回数ひけばあたるので数を出す勢いで、どんどん学外に出て行って色々な機会を見つけてほしい。とはいえ、僕にとっては研究がそうであったように、自分の好きなことをやるのが1番なので、それに没頭してもらえたらと思います。

キーワード

  • AI
  • 数理最適化
  • 量子技術
山城 悠(やましろゆう)氏
株式会社Jij CEO
山城 悠 氏×知念 優 氏
1994年、沖縄県生まれ。東京工業大学大学院にて量子アニーリングの研究に携わりながら、JST-STARTプロジェクトへ参画。同プロジェクトの成果として株式会社Jijを創業した。株式会社Jijは、ビジネスを適応的に最適化させていく「社会のOSを創る」ことをビジョンに掲げ、量子技術やイジング最適化計算技術といった最先端の技術をサポートしながら定式化、実装、評価までの数理最適化の開発プロセスを支援するクラウドサービスJijZept™を開発し、プロジェクト支援・教育支援といったサービス提供している。
山城 悠 氏×知念 優 氏
知念 優(ちねんゆう)さん
東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 学士課程2年
山城 悠 氏×知念 優 氏
2003年生まれ、沖縄県出身。専門は組合せ最適化。合成生物学を応用したアイディアを発表する世界的なイベント iGEM に東工大チームとして参加。iGEM TokyoTech 2022 では Dry leader として主にデータ分析を担当し、iGEM TokyoTech 2023 では Sub leader として技術的な貢献に加えて渉外なども担当。現在は数理最適化技術を社会課題に応用する方法を模索中で、特に教育格差に関して強い関心があり、起業したいと考えている。
山城 悠 氏×知念 優 氏