前編は、漫画の話題で盛り上がりつつ、1度目の起業経験と共に、絵の力のすごさを再確認したことで2度目の起業に至ったエピソードをお聞きしました。後編では、本連載のテーマである「偏愛起業主義。」に基づき、好きなものを追求すること=偏愛が、起業に繋がるのではないか? という仮説を、東工大出身の起業家の先輩たちへのインタビューを通して検証していきます。
Interviewee:株式会社フーモア 代表取締役 芝辻幹也さん
1983年生。東京工業大学・同大学院卒業後、2009年アクセンチュア入社。2010年7月シェアコトを創業し、事業譲渡後、2011年5月トライバルメディアハウスに入社。 2011年11月株式会社フーモアを創業し同社代表に就任。ゲームのイラストやマンガ制作、webtoon制作などを手掛ける。株式会社フーモアについて
「クリエイティブで世界中に感動を」をビジョンに掲げ、スマホに特化したフルカラーのデジタルコミックやイラスト、漫画などを活用したエンタテインメントを提供。特に約13,000名を超える登録クリエイターの分業体制により、短期間での高品質な制作を得意とする。現在、フーモアはグローバルでの市場獲得を目指し、国内外のパートナーと共に多くのwebtoon制作を行う。今後もヒット作の開発を目指し、webtoon事業を積極的に拡大中。
自分で漫画を描いていたというのもありますが、やはり世に出ていない才能が沢山あるのです。漫画家さんはまさにそうで、食える漫画家は数百人しかいないと言われていたり。そういう才能のある方達と、漫画を別の形で使う事業ができているので、続けられているのかもしれないです。ですから、本当にお客さんにもクリエイターさんにも感謝しています。自己満足よりは、誰かを喜ばせて、お金をいただき、こちらもそれ以上のものでお返しできたら大変嬉しいし、次に繋がるので。
それ以外の理由だと、自分は単純にエンタメ・制作領域が苦じゃないんです。苦しかったら続けられない。金銭面とかマネジメントがうまくいかないとか、苦しい時もありますが、途中でやめることは絶対ないだろうな、と。
能力が高い人は沢山いるので、「絶対に勝てる領域を見つけて、そこで行動する」というのはよくやります。1回目の起業でのタイムマシーン経営もそうで、時間や情報の格差で戦える領域に自分達の武器を使いながら当てる。そうすると、上手くはまることがあるんですよ。そういうことを結構やってきています。ダイナミックな大きい事業もあるのですが、そういう意識で動く小さい施策の積み重ねも多くて。……伝わりますか?
例えば、今自分は現場編集者もやりつつ、CEOとして会社経営もしているのですが、マネジメント目線で現場を語れる人は、多くはいません。でも現場を進行形でやっているからこそ、マネジメント側にも現場にも、言動が「本当にそうだよね」と響くことがあるのです。もちろん、結果を出すことはすごく大事。絶対誰でも価値を出せる分野があるので、そこを見つけて最速で攻めていく。スピード勝負ですね。熱意があると、即レス即対応になると思うのです。
そういう時は、もう勝ちパターンですね。夢中になってやれているので。一方で、即レスしなきゃ、あれもやんなきゃ……ってなっていると、どんどん苦しくなっちゃう。やはり、ワクワクするとか、誰かに感謝してもらえる時は、苦しく思わずやれてしまうのです。
主人公がヤクザと政治家の『サンクチュアリ』という漫画があって、それは結構おすすめですね。起業家でバイブルにしている人も結構多いのではないかな。
『サンクチュアリ』 原作:史村翔/作画:池上遼一
(あらすじ)北条彰と浅見千秋は共にカンボジアで少年時代を送っていた。政変の混乱により家族を失った北条彰は、浅見千秋と共に何とかカンボジアから脱出し日本へ戻る。日本に戻った二人を待っていたのは、一見平和に見えても、腐敗した社会構造に支配された世の中であった。やがて成長した二人は表と裏の二手に分かれ、「生きた人間を作る」ため、日本社会の改革へと動き出す。
「サンクチュアリ(漫画)- マンガペディア」より引用
メッセージは、人生のターニングポイントが増えるので、色々な経験をしてほしいと思っています。沢山のことを経験すると自分の好き嫌いもわかるし、トライした結果、苦手だと初めてわかる時もある。その中で、やりたいテーマが見つかると思うのです。エンタメかな、とか、やはり自分は技術だな、とか、色々あると思うので。それを見つけてほしいと思いますね。
後編では、芝辻さんの事業に対する想いをお伺いすることができました。事業を続けていく上で、ビジョンや本当にやりたいことの重要性は前編でも話題にのぼりましたが、後編での“苦じゃない”というキーワードは、新たな視点でした。
経営者として幅広い業務をこなす中、それに関連する業務が“そもそも苦ではない”ことであるのは、見落としがちかもしれないです。私自身もBtoB向けの事業を検討した際、やりたいことではあったものの、法人営業を避けては通れないことに気づきました。私は営業どころか人と話すことも苦手な上、法人営業が得意そうな人がそもそも苦手かもしれない、と思い、結果的に事業を撤退することにしました。もしかすると、やりたい気持ちが高ければ、夢中になって、苦手な法人営業すらも苦ではなかったのかもしれません。ただ、振り返ってみると結果的にそれほどやり抜きたいものではなかったということだとも思います。
そんな反省を思い出しつつも、自分がパフォーマンスもスピードも出せる領域を探すという超実践的なアドバイスを頂けたインタビューでした。
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上記は、取材時2024年1月時点のものです