2025年5月20日
日時2025年 5月20日(月)19:00-21:00
2025年5月19日(月)、東京科学大学INDESTにて、2025年度初回となる「INDEST学生カフェ05」を開催しました。
今回のテーマは「病気ゼロの実現にむけて ―腸内デザイン推進企業 メタジェン 10年間の挑戦-」。ゲストに、株式会社メタジェン 代表取締役社長CEO 福田真嗣さんをお迎えし、学生ナビゲーターとして佐藤龍飛さん(生命理工学院 生命理工学系 生命理工学コース 山田研究室所属)を迎えての対話形式で進行しました。実践の現場に立つ二人の、本気のことばがぶつかり合う90分。研究成果の社会実装と起業、腸内環境と健康の未来について、参加者からの質問も交えながら、熱く語り合う濃密な時間となりました。
井上副機構長の開会挨拶で幕を開け、湯原URA司会進行のもと、福田さんによるプレゼンテーションから始まりました。
「腸内環境をデザインすることで病気ゼロを実現する」を掲げるメタジェンは、腸内フローラや腸内代謝物質のメタボロゲノミクス®により得られた結果を元に、便を活用した事業を行っているユニークな企業です。福田さんは、企業理念への想いを述べ、健康な人の便から有用な腸内細菌を同定し、健康維持や疾病予防、さらには治療に活用する、というユニークなビジネスモデルを紹介しました。山形県鶴岡市(本社所在地)に新設した、日本初の献便施設「つるおか献便ルーム」の例を挙げ、現在は条件の適う便提供者(ドナー)が希少であることや、便ドナーへは謝礼としてギフトカードを提供するといった腸内細菌ドネーションの具体的な取り組みも示され「便に価値をつける」という発想の転換に、会場からも驚きの声が上がりました。
また、腸内フローラのタイプに着目したグラノーラ商品やドリンク商品の開発、メタジェンセラピューティクス社による創薬領域への展開など、食品と医療を横断した新たなアプローチについても紹介。これらはいずれも、10年以上描きつづけてきた構想をもとに、実現へとこぎつけた挑戦であると明かされました。
なぜ、研究者としてのキャリアから起業家への道を選んだのか。その背景と動機について、「理由はいくつもある」という福田さん。ひとつの理由は「怒り」としながら、次世代の研究者に向けて新たなキャリアを示すこと、持続的な研究をするためのエコシステムを構築すること、そしてなにより研究成果を社会実装すること、とし、「病気ゼロを実現する」を掲げたメタジェン社設立への経緯を語りました。
研究成果を「社会に還元する」には、従来のアカデミアの枠組みだけでは限界があること、そして実際に行動を起こすことの重要性を丁寧に話してくれました。アカデミアとビジネスの文化的ギャップを「アカデミアの常識は社会の非常識!」と切り出して、会場の笑いを誘いながらも「サイエンスは人類のためにある」と持論を述べ、研究成果を論文にするだけでなく社会に還元する意義にも言及。そして「新しいことが生まれようとしたときには必ず問題が生まれる、その問題を恐れて何もしないのは社会的損失」と、チャレンジ精神の大切さを伝えてくれました。
歩んできた道を振り返りながら、「サイエンスかビジネスか」の「or」の発想ではなく、「サイエンスとビジネスを両立させる」ための「andの発想」を強調する福田さん。矛盾しそうな二つの選択肢のどちらかを選ぶのではなく、両立させるためのアイデアを考えることが大事、と提示したうえで、所属に依存しない関係性の構築や、主体的なキャリア設計、走りながら武器を拾う姿勢が必要不可欠と語りました。ナビゲーターの佐藤さんも研究や起業への関心を交えながら深く問いかけを続け、福田さんとの対話は実体験に裏打ちされたリアルな視点で進んでいきました。
質疑応答では、メタジェンがカルビー社とサイキンソー社と開発したBody Granolaの開発秘話や、創薬におけるモダリティの課題についての質問が挙がりました。博士課程の学生からは、「研究と企業活動の両立」についての葛藤が共有され、若手研究者からは「キャリアパスの選択」についての悩みも投げかけられるなど、会場との対話も活発に展開しました。
「走りながら武器を拾う!」「選択肢に正解があるわけではなく、選んだ道を正解にするように努力する!」と、力強いことばでみなさんの背中を押す福田さんは「矛盾するような二つの選択肢を両立することがイノベーション」とも言いました。そして、好きでたまらないことをあきらめる必要はないと続け、「行動し続けることで仲間が増え、選択肢が増える。自由に夢を実現させていきましょう」と語り掛けてくださいました。
すべてが示唆に富んだメッセージとなった今回のイベントは、研究と社会をつなぐひとつのモデルとして、メタジェンの10年にわたる挑戦を紹介するとともに、参加者と一緒に「科学者とはなにか」「自分はどう行動したいか」などを考える貴重な機会となりました。科学への真摯なことばが続く中、「茶色い宝石®」や「ブラウンオーシャン」といったメタジェン社ならではのキラーフレーズも飛び交い、終始、笑いと活気と情熱に満ちた対談となりました。アカデミアの常識を超え、実践的に社会と関わる研究者像を提示し続ける福田さんの姿は、今後のキャリアを考える多くの学生・若手研究者にとって、大きな刺激となったのではないでしょうか。
ご来場のみなさま、ご登壇の福田さん、ナビゲーターの佐藤さん、ありがとうございました。また告知や当日の会場設営など、お力添えくださった多くのみなさま、またご協賛くださるみなさま方にも深くお礼を申し上げます。
今後も、INDESTでは、研究者・学生・企業をつなぎ、社会とつながる「学びの場」を提供してまいります。世界を変えるスタートアップにご関心のあるみなさま、引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。
(テキスト・サムネイル CM・URA 小川由美子)
ナビゲーターとして見事な役割をつとめた佐藤さんのgrubioでは、福田さんのインタビュー記事も公開されています。