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2023年10月3日

開催レポート:INDEST勉強会 #8 「 あきらめない限り、失敗はスタート~腸内細菌データを活用した研究と起業~」

日時2023年9月5日(火)18:30~20:30(現地/オンライン:両方ハイブリッド参加型)

2023年9月5日(火)18:30~INDESTでは、勉強会#8 「あきらめない限り、失敗はスタート ~腸内細菌データを活用した研究と起業~」を開催しました。今回の講師は、東京工業大学生命理工学院准教授の山田拓司(やまだたくじ) 先生。

山田先生は、研究テーマである「ヒト腸内環境ビックデータ解析」を元に、株式会社メタジェンを設立後、株式会社digzyme2022年東工大発ベンチャー大賞受賞) 、メタジェンセラピューティクス株式会社の計3社を起業され、CTO、CSOを務められております。中でも、腸内細菌叢バンクの構築により、「腸内細菌叢移植(FMT)」の社会実装と「マイクロバイオーム創薬」を推進するメタジェンセラピューティクス株式会社では、6月に“総額17億円でシリーズA資金調達完了”という快挙を遂げられました。大学発ベンチャーとして前例がない中、パイオニアとして次々と新しい扉を開いてこられた山田先生。そんな山田先生の起業までの道のり、ブレイクスルーのポイントについてお話を頂きました。

今回のポイントは以下2つ。

腸内の環境について

起業の環境について

腸内の環境について

体内と腸内との間には「腸内フローラ」と呼ばれる腸内細菌の密集エリアがあり、腸内細菌は成人ではおよそ0.4〜1.5kg、100-1000種類、40兆個も存在します。これらの細菌は、腸内環境をバランスよく保ち、我々の健康に大きな影響を与えています。2004年に登場したメタゲノム解析により、腸内細菌の研究が急速に進展しました。人の腸内環境が分かり始めたのが2006年頃。研究の歴史としては、まだ15年ほどしか経っていません。メタゲノム解析の結果、腸内細菌が健康や精神疾患にも影響を与えることが判明し、世界中でこれらの研究が活発化しました。特に、大腸がんの超早期診断が可能となる可能性があり、これは予防医療の一環として注目されています。腸内環境は言わば、ちくわの内部のようで、「腸内が健康であること=ちくわ全体(=身体全体)の健康」につながります。ちくわの内側を見ておけば、ちくわそのものが腐ってきたことがわかる、というわけです。

私が2012年に東工大への赴任前からやりたかったのは、「先制医療(予防医療)」と呼ばれる、病気になる前に直すこと。人のゲノムを解析してよりよい治療をしようという考え方ではなく、プレションヘルスケア(データとAIを活用した高度な分析により、病気の予測や予防含め個々に最も効果的な治療法を特定するもの)です。ただそれを行っていくには臨床試験や創薬のための研究開発が必要です。これらの基礎研究の為の資金を、サステナブルに得たい、というのが起業に至った経緯です。

起業の環境について

2015年の株式会社メタジェン(以下、メタジェン)を創業後、株式会社digzyme、メタジェンセラピューティクス株式会社(以下、メタジェンセラピューティクス)含めた、計3社を起業しました。研究と資金調達のバランスを取る方法を見つけ、サステナブルに研究を続けるために会社を設立したのです。(※山田先生の起業経緯の詳細は、インタビュー記事を御覧ください)メタジェンは、従業員26人と取締役4人の計30人体制で現在、取締役副社長CTOを務め、資金調達を行わずにオーガニックグロースで成長しています。

きっかけは、株式会社リバネス主催のバイオサイエンスグランプリで最優秀賞の受賞からです。ここで、”Ben(便)から生み出す健康社会”(Be-nefit)を銘打ったプレゼンを発表しました。便には色々な菌が住んでいて、健康・疾病に関する情報があり、まさに”茶色い宝石”である、と。「最先端テクノロジーで茶色い宝石(便)から健康情報を抽出し、個々人に還元することで病気ゼロ社会を実現する」と宣言したのです。

メタジェンのビジョンは、このように「腸内環境をデザインして病気ゼロ社会を実現すること」。この実現むけ、腸内環境に合ったヘルスケアを提供しています。また、メタジェンセラピューティクスは「マイクロバイオームサイエンス(微生物の遺伝子や機能を解析することで、健康維持や疾患予防に役立てる研究)で患者さんの願いを叶え続けること」を目的とし、シンガポールでもマイクロバイオームサイエンスの世界展開を目指して動いています。具体的な事業の1つとしては、腸内環境に合わせた商品提案によって腸内環境改善ソリューションを提供しています。ここでは、カルビー株式会社など多くの企業と、腸内環境最適化のために連携を行っています。

起業後8年ほどたった今、振り返ってみると、前述の企業ビジョンや実現したい未来、課題への情熱は一切変わっておりません。一方で、それをどう実現するか、社内組織体制やキャッシュポイント、ビジネスモデル、商材などは、臨機応変に対応してきました。サイエンスとは、発見は1個、真実は1つですが、ビジネスの場合は正解というか、マーケットからくるキャッシュポイントは複数ある。これが、研究とは異なる面白いところです。

また、教訓として得たのは、「情熱、実現したい未来は言語化してメンバーに伝え続けること」。近くにいる同志こそ、自分では気づかないうちに、これらが分からなくなったり、ずれたりする場合が多い。チームが一つの方向に向かうことが重要であり、その方向を明確に伝えることが成功の鍵だと思っています。


後半の質疑応答では、オンライン/オフラインご参加の皆様より以下のご質問を頂きました。

  • 研究と起業の両立について
  • 研究室運営と会社運営の違いと共通点
  • メタジェンから子会社をつくろうとした理由とその経緯、
  • 分社化してよかった点、注意点
  • 研究発スタートアップに外部からCEOが加わる場合のCEO候補像
  • 資金調達なしのメタジェンが拡大できた理由
  • 研究者とCTO(経営)のマインドの切替

山田先生、ご参加者の皆様、改めて有難うございました。

(By:INDESTコミュニティーマネージャー湯原理恵)

▼山田先生インタビュー記事:

東工大発スタートアップにまつわる、起業家の素顔に迫るインタビュー・シリーズ「ブレイクスルーの扉」第1回:山田先生

 

講師紹介

山田拓司(やまだたくじ) 氏

東京工業大学生命理工学院准教授。2006年・京都大学大学院理学研究科博士課程修了 博士(理学)。京都大学化学研究所助手、ドイツ欧州分子生物学研究所研究員、東京工業大学大学院生命理工学研究科講師を経て、2016年より現職。2014年よりヒト腸内細菌解析のための産学連携コンソーシアム「Japanese Consortium for Human Microbiome」を設立し、大学内の研究成果を産業応用につなげる活動を行っている。2015年、株式会社メタジェンを共同設立、同社取締役副社長CTOを兼任。2019年、株式会社digzyme 取締役CSOに就任。2020年メタジェンセラピューティクス株式会社取締役CTOに就任。専門は生命情報科学。2020年、令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞。

タイムテーブル

18:00 ご挨拶・INDEST紹介
18:05 山田先生による講義
18:30 Q&A
19:00 交流会