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2026年3月2日

特別対談|新しい未来を創る循環へ―大学と投資家が描く、ディープテック人材育成のエコシステム

日時2026年 3月

特別対談シリーズ第二弾として、2026年2月、東京科学大学田町キャンパスINDESTに、株式会社みらい創造インベストメンツ  取締役・共同創業者 金子大介氏をお迎えし、イノベーションデザイン機構 機構長 辻本将晴教授との特別対談を行いました。


ディープテック・スタートアップを取り巻く環境は、大きく変化しています。政府による支援制度の拡充、大学発ベンチャー創出の加速、民間投資の活発化、その一方で、現場からは「経営者人材が足りない」という声もよく聞かれます。しかし、不足しているのは「経営者そのもの」なのでしょうか。

本対談では、東京科学大学(Science Tokyo)のスタートアップ支援を牽引するイノベーションデザイン機構の辻本将晴教授が、起業家であり、また投資家としても数々の伴走型支援を実践してきたみらい創造インベストメンツの金子大介氏をゲストに迎え、大学における経営者人材の育成について語ります。

今回の対談の鍵となるのは、MIT(マサチューセッツ工科大学)スローンスクールに見るエコシステムの知見。「経営者候補は『探す』ものではなく『育つ』ものではないか」という問いを起点に、日本における実装の可能性を深掘りします。単なるマッチングでは解決できない「信頼関係に基づくチーム形成」の在り方や、次世代の経営者が自然に立ち上がるための仕組みを紐解きます。

「経営者人材がいない」という声の正体

―スタートアップ支援において、「経営者人材が足りない」という声がたびたびあがります。投資家の立場から、また研究者、大学としての立場から、この現状をどう捉えていますか。

金子氏「ディープテック・スタートアップの現場では、『技術はあるけれど経営者がいない』とよく耳にします。投資家の立場から見ても、この課題感は年々顕在化しています。一方で、環境自体は大きく改善してきました。創業前の研究に対する資金助成については、東京科学大学も参画しているGTIE等、全国で展開されているGAPファンドプログラムをはじめとする政府支援が拡充しており、創業後についてもNEDO、JAXA、AMEDなどで、ディープテック向けの大型補助金が予算化されています。

だからこそ逆に、『経営者人材が足りない』という問題がより浮かび上がってきています。特に最近では、創業段階から『Day 1 Global(初日から世界を目指す経営チーム)』が求められるようになり、国内市場だけを前提にした経営体制では資金調達が難しくなっています。ディープテックでは、技術シーズと同じレベル、あるいはそれ以上に、経営チームの質が問われていると感じています。」

辻本 「私はこの課題を『経営者がいない』という単純な話ではなく、構造的な問題と捉えています。いない、という側面もあるけれど、それ以上に『育っていない』『育ててこなかった』ようにも思います。アメリカでは、大学と産業界の中に経営者人材が育つ土壌がある。日本では、その仕組み自体がまだ十分ではありません。『急にすごい人が現れる』わけではない以上、時間をかけて育てる仕組みが必要ではないか、と考えています。」

金子氏 「こうした課題意識を共有する中で、2024年度から辻本先生にもご協力いただき、東京科学大学MOTと連携して『ディープテック起業家創出コース』を立ち上げました。全6回のプログラムで、学生・社会人を問わずオープンに募集しております。

ディープテックは外から見ると華やかに見えますが、実際には非常に泥臭く、厳しい世界です。その現実が十分に共有されていないため、同じような失敗や課題が繰り返されていると感じています。そこで本講座では、現場感を重視して設計しました。ディープテック特有の難しさを理解したうえで経営に挑戦してほしいという思いから、オンライン配信は行わず、東京科学大学田町キャンパスでの対面開催のみとしました。

各回ディープテック起業家・経営者よりディープテックの最前線で経験したハードシングスをオフレコで語っていただき、ワークショップを通じて、個々人が追体験できる構成としました。2024年度・2025年度ともに定員の2倍以上の応募があり、書類選考と面接を経て半数以下に絞らせていただきました。

九州や名古屋など遠方から参加される方もあり、大企業、スタートアップ、大学研究者等、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材が集まりました。修了生同士のアルムナイ活動も始まっていますが、講座を通じてハードシングスを理解しているつもりでも『自分だけは違う』と思って同じ壁にぶつかるケースはすでに多く見られています。困難な局面では、経営者が『自分が悪いのではないか』と一人で抱え込んでしまうことも少なくありません。アルムナイを含めたコミュニティとして、ディープテックの難しさや失敗経験を共有できる仲間をつくることが、事業の成功に向けても重要だと考えています。」


MITのエコシステムに見る、経営者候補が立ち上がる仕組み

―辻本機構長は、2025年12月までMITに客員研究員として滞在されていました。研究者としてみてきたMITスローンスクールのエコシステムには、どのようなヒントがありましたか。

辻本 「すべてを見てきたわけではありませんが、それでも、中にいてわかったことも幾つかあります。印象的だったのは、ビジネス経験者と研究室の学生が、同じ講義やプロジェクトを通じて長い時間を共有する仕組みです。 そこで行われているのは単なるマッチングではなく、システマティックに設計された『信頼の形成』でした。

MITでは、経営者候補は探して連れてくるというより、『スクールの中で立ち上がってくる』という表現の方が近いですね。特にスローンスクールには、社会人経験を持つ600〜700人規模の人材が集まっています。そこに、研究室に所属する学生や博士課程の学生が合流し、混成チームで授業を受ける。学生のうちから一緒に事業づくりに取り組み、プレゼン、コンペ、アクセラレーションなどを段階的に経験する中で、自然とチームが絞り込まれていきます。重要なのは、後から経営者をくっつけないこと。後付けのマッチングは、信頼関係を築くのが難しい。」


なぜ「マッチング」ではなく「信頼関係」なのか

-最終的に投資判断で重視されるのは「人と人の関係性」とも伺います。信頼関係ができているチームとそうでないチームの違いをどう見ていますか。

金子氏 「投資家の立場から見ても、最終的に効いてくるのは人と人の関係性です。創業時は勢いで進んでいても、事業が進むにつれて重要な経営判断の場面で違和感が顕在化し、チームが崩れるケースは少なくありません。例えば、大型契約の締結時や資金調達の局面などです。自分たちは絶対に大丈夫、と言っていたチームが、数か月後には崩れてしまうことも珍しくありません。単に仲が良いだけでは乗り越えられない局面があります。

これはディープテックに限った話ではありませんが、特にディープテックでは研究者とビジネス人材が経営チームを構成することが多く、それぞれのバックグラウンドに基づく暗黙知や価値観の違いが表面化しやすいと感じています。研究者から見るとビジネス側の判断に『技術への理解や愛が足りない』、ビジネス側からすると『商習慣としての落としどころが理解されない』と感じることもあります。

そこには、アンコンシャス・バイアスもあり、文化の違いもあります。そういう意味でも、GAPファンドなどを通じて創業前から伴走し、時系列でチームを定点観測できる仕組みは重要だと考えています。時間の経過とともに発言や考え方が変わっていくことや、微妙な違和感が見えてくることもあるからです。」

辻本 「まったく、そうですね。自分自身も『先生』側としてわかる気がします。私もまだうまく言えないのですが、『なにかが違う』というのは確かにあると思います。そして、その違いはなかなか埋まらず、例えば、研究者とビジネス人材が直接向き合うと文化の違いが表面化しやすいと感じています。しかし、その間に学生が入ることで共通言語が生まれ、『信頼関係』が育ちやすくなる。学生は、技術を理解し、柔軟性もある。時には野心もあります。学生がカタリスト(触媒)として機能する場面が多い気がします。

MITでは、大学として、我々は責任はとらないと明言して、その前提でやるわけですが、大学の中であれば失敗しても取り返しがきく。ビジネス人材と研究者、先生たちが共に汗をかき、「信頼」を構築しながらチームを練り上げていくプロセスが生まれます。そこでの『安全な失敗環境』が、結果として(信頼関係を基盤とした)強いチームを育てるのだと思います。」


日本でどう実装するか|大学と投資家の役割

―日本における実装として、具体的には、どのような取り組みを始めていますか。また、始めたいと思っていますか。

金子氏 「弊社では、経済産業省やNEDOの事業にも採択され、客員起業家制度(EIR)の整備・運営を進めてきました。客員起業家制度とは、経営人材候補が創業前に1年程度ベンチャーキャピタル等で雇用されて資金的な支援を受けつつ、ノウハウ・知見・ネットワークを獲得しながら起業に繋げていくものです。ディープテックにおいては、GAPファンド等の創業前支援が充実しているので、それらを研究者と一緒に申請・獲得しながら事業開発・研究開発を進め、同時に信頼関係を構築していく活動をしております。

その中で見えてきたのは、経営人材だけでなく、研究者とは別のCTO人材も必要ではないかという仮説です。この取り組みは、東京都事業にも採択され、CTO人材のプール構築や育成にもつなげています。また、実際にベンチャークリエーションの取り組みを進める中で、研究者と経営人材の1対1の組み合わせではなく、客員起業家やCTO人材など複数の人材を組み合わせて経営チームを構築することが重要と考えるようになりました。

現在も、直近2つの案件で、創業前からこのチーム形成に取り組んでおり、1つは既に創業、もう1つも近々創業予定です。多様な経営人材プールの構築においては、『ディープテック起業家創出コース』として、東京科学大学MOTと連携したことで、これまでリーチできていなかった層と出会えるようになったことも大きな成果だと感じています。」

辻本 「経営者は1人いればいい、という時代ではありません。起ち上げ、スケール、量産、それぞれで求められる能力は違います。求められる能力や経験はそれぞれの場面で異なりますが、基本的には組み合わせを考えたり、調整する人が必要になってきます。

大学としては『人が育つ、人が循環する、信頼関係が積み重なる』そうしたエコシステムを設計し、回し続けることが役割になるのではないでしょうか。現在、新たなスクール構想も進めています。 MITのような多様な人材が混ざり合う環境を日本風にアップデートし、投資家の方々のリアルタイムな知見もインプットしながら、(2031年の田町新キャンパス完成に向けて)世界中からスタートアップを担う人材が集まる仕組みを完成させたいと考えています。」


いま、挑戦する人たちへ

―最後に、社会実装を志す研究者や学生、これから起業や経営に関わろうとする方々へメッセージをお願いします。

金子氏 「ディープテックを取り巻く環境は、この数年で大きく変わりました。起業を目指す方や社会実装に挑戦する研究者にとって、いまは大きな機会が開かれている時代です。想いがある方には、ぜひチャレンジしてほしいと思います。また、ディープテック経営には確立された成功モデルがまだ少ないため、業界は違っても、同じように挑戦している仲間や先輩とのコミュニティが非常に重要になります。大学のOB・OGネットワークやINDESTのような拠り所もぜひ活用してほしいと思います。私たちも投資家として伴走しながら、日本から世界を変えるディープテック企業を生み出していきたいと考えています。」

辻本 「システム論者として言うと、エコシステムというものは、設計された人工物です。自然にできるものではない。また、大学は本来、人を育てる場所です。東京科学大学としては、足りない、回っていないところを支援してきたい、もっと機能させたいと考えています。そして、学生にも、研究者にも、実務家にもこの循環に参加してほしいと思っています。信頼関係とリアリティのある現場感を大切にしながら、先生や学生が気軽に参加し、サイクルを回していけるエコシステムを整えていきます。Running by dreamとして、この仕組みを生かし、新しい未来を創っていきましょう。」

株式会社みらい創造インベストメンツ 取締役 / 共同創業者 マネージングパートナー 金子大介 氏

東京工業大学大学院修士課程修了後、戦略コンサルタントとして事業戦略立案、新規事業構築、M&A支援に従事。2014年にみらい創造機構を共同創業し、ベンチャーキャピタル事業を統括。社外取締役4社を歴任。IPO実績はツクルバ、KIYOラーニング、Synspective。東京科学大学非常勤講師。

東京科学大学イノベーションデザイン機構 辻本将晴

慶應義塾大学総合政策学部卒業、同大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。東京大学大学院工学系研究科助手、芝浦工業大学専門職大学院工学マネジメント研究科専任講師、法政大学ビジネススクールイノベーションマネジメント研究科准教授を経て2010年4月東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科准教授。2020年4月より現職。2014年TUHH Guest Professor、2019年ETH Zurich Academic Guest (Chair of Entrepreneurship)、2025年MIT SDM (System Design and Management) Guest Professor。2024年より理事特別補佐(研究・産学連携)、イノベーションデザイン機構 機構長,Innovation Design Studio (INDEST) 施設長等を兼務。Greater Tokyo Innovation Ecosystem(GTIE)プログラム代表。

(テキスト・サムネイル CM・URA 小川由美子 /写真 堀川健一郎)