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2026年3月4日

【開催報告】Science Tokyo(東京科学大学)INDESTが拓く量子の未来シリーズ第3弾|「量子コンピュータ産業の現在地と未来に向けた跳躍」

日時2026年 2月25日(水)14:00-16:30

2026年2月25日、東京科学大学が運営するINDESTにて、シリーズ第3弾となるトークセッション「量子コンピューター産業の現在地と未来に向けた跳躍」を開催しました。

本イベントでは、量子技術の研究開発および社会実装の最前線に立つ研究者・実務家が一堂に会し、ハードウェア、ソフトウェア、アプリケーション、さらには人材育成に至るまで、幅広い観点から現状と課題を共有しました。議論を通じて、日本が今後どのような戦略的ポジショニングを取るべきかについて、多くの示唆が提示されました。

モデレーターは、INDEST入居者でもある株式会社Jij CEO 代表取締役CEOの山城悠氏。ゲストとして、産業技術総合研究所 量子・A I融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)センター長であり、東京科学大学特別顧問の益一哉名誉教授、株式会社デンソーの門脇正史氏、慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の田中宗教授をお迎えしました。

はじめに・自己紹介

基礎科学とビジネスが渾然一体となる「アジャイル・ダイナミック社会」

冒頭では、辻本機構長が開会の挨拶として、参加者への感謝とともに、今後のネットワーク拡大への期待を述べました。続いて登壇者それぞれが自己紹介を兼ね、自身の立場から「量子コンピューター産業」と向き合う現在地について語りました。

益一哉氏は、量子技術を取り巻く社会構造の変化に言及。産業革命以降、基礎科学の成果が時間をかけて産業へと展開されてきた歴史を振り返りつつ、現在は基礎科学・応用研究・テクノロジー・ビジネスが同時並行で進む「アジャイル・ダイナミック社会」へ移行していると指摘しました。その象徴が量子力学であり、AIや半導体と融合しながら「計算そのもの」が社会基盤となりつつあること、量子コンピューターはもはや遠い未来の装置ではなく、現実の研究開発や産業競争力を左右する存在であると強調しました。

田中宗氏は、慶應義塾大学における量子技術への取り組みとして、サステナブル量子AI研究センターやBio2Q研究センターの設立を紹介。量子コンピューティングの実用化においては、試行錯誤を支える研究環境が重要であると述べ、AIと量子技術を組み合わせた新しい研究手法の可能性を示しました。また、研究室での学生との日々の議論から得られる知的興奮に触れ、学生が生み出す新しい発想の価値についても語りました。

門脇正史氏は、自身のこれまでのキャリアを振り返りながら、企業研究者の立場からAI for Scienceの重要性を強調。現在掲げている「最強のAI物理学者を育てる」という目標に触れつつ、米国のGenesis Missionにも言及し、AI for Scienceに加えてAI for Engineeringを含めた産業化戦略、そして、それを通じて国際的な価値創出を図る在り方について問題提起を行いました。

山城悠氏は、Jijの事業紹介とともに、量子コンピューティングとHPC(高性能計算機)を組み合わせたハイブリッドアルゴリズムの開発状況を説明。直近の事業活動報告に加え、GoogleのWillowによる量子誤り訂正の実証、AIと量子コンピューティングの相互作用、日本の量子技術が持つ戦略的ポジションについても言及しました。

トークセッション

国家戦略としての量子投資と、日本の立ち位置

ディスカッションでは、国や企業による投資の重要性も議題となりました。2020年以降、日本では半導体、AI、量子技術といった分野への投資が段階的に拡大、量子分野にも国からの予算が投じられています。量子分野への支援については、「成果が見えるまで時間を要する分野への投資は、未来への賭けでもある」という意見が示される一方で、「次世代の科学技術基盤を維持・強化するためには不可欠な戦略である」との認識も共有されました。

AI × 量子が切り拓く、新しい計算パラダイム

特に注目を集めたのが、AIと量子コンピューティングの相乗効果です。量子誤り訂正を巡る最新研究では、理論上の限界とされてきた現象が実験的に実証されつつあり、量子力学そのものを裏付ける成果として紹介されました。さらに、誤り訂正のデコーディングや量子回路の最適化において、AIや大規模言語モデル(LLM)が活用され始めていることから、AIは量子コンピューターをつくる存在「AI for Quantum」と同時に、AIを加速させる触媒「Quantum for AI」として機能し始めているという見方も示されました。

応用研究と基礎アルゴリズム開発の両輪

「既存の産業課題に量子アルゴリズムをどう適用するのか」という実践的な問いも投げかけられました。材料科学など、シミュレーション技術が成熟した分野では成果があらわれ始めている一方、現実世界の複雑な課題に対応するには、依然として基礎的なアルゴリズム研究が不可欠であるという声もありました。その中でも、特に日本の強みとして挙げられたのが、HPCと量子コンピューターを組み合わせたハイブリッドアルゴリズムです。この「量子・古典技術融合」のアプローチは、現実解に近づくための有力な道筋として期待を集めています。

20年後、量子コンピューターは「意識されない存在」へ

質疑応答では、「20年後、量子コンピューターはどうなっているか」という問いが寄せられました。これに対し登壇者らは、「ユーザーの目には見えない存在になる」との見解を示しました。かつてコンピューターの内部構造を意識せずに使うようになったのと同様に、量子技術も計算基盤の一部として自然に統合されていく。人はAIに対して仕様や目的を伝える役割に集中し、量子コンピューターはその背後で、「インフラとして真価を発揮するのではないか」といった未来像が語られました。

分野横断の人材が、次のブレークスルーを生む

議論の終盤には、人材育成の重要性も話題となりました。量子分野の専門家を育てるだけでなく、AI、材料科学、機械工学など、異分野の研究者、技術者が量子技術に「気軽に触れられる」環境づくりが不可欠、との意見が交わされました。大学、産業界、政府機関が連携し、敷居を下げて、参加の場を広げることで、想定外の組み合わせから新たなブレークスルーが生まれる——そんな期待を残し、セッションは幕を閉じました。

おしまいに

量子コンピューティングは、まさに発展途上の技術です。本シリーズを通じて浮かび上がったのは、「遠い未来の夢」ではなく、今まさに形を持ち始めた産業基盤としてのリアリティでした。今回のINDESTでの対話も、日本の量子産業の次なる跳躍につながる一助となれば幸いです。

本イベントには約400名の方にご登録いただき、量子分野への関心と期待の高さを改めて感じる機会となりました。現地での名刺交換会にも多くの方が参加され、議論の続きを深める場となりました。心より御礼申し上げます。共催の株式会社Jijの皆さま、ご登壇いただいた皆さま、そして開催にあたり多大なご支援を賜りました関係各位に、改めて感謝申し上げます。また、ご協賛いただいたみらい創造インベストメンツ様、株式会社クレスコ様にも御礼申し上げます。

INDESTは、イノベーションが生まれる場、そして「量子・AI・最適化のトキワ荘」を目指し、今後も活動を続けてまいります。引き続き、ご支援・ご参加のほどよろしくお願いいたします。

タイムテーブル

13:30 受付開始
14:00-14:10  オープニング|ご挨拶・INDEST紹介
14:10-15:40  トークセッション(質疑応答含む)
15:40-15:45     休憩
15:45-16:30    名刺交換会(現地参加のみ)

量子イベント|シリーズ

 

(企画・司会進行 CM・URA 湯原理恵、テキスト・サムネイル CM・URA 小川由美子、写真撮影 篠原將門)